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夢の魅惑

 

Incatesiomo di un Sogno -meditazione(瞑想曲「夢の魅惑」)

作曲者:U.Bottacchiari(ボッタキアリ)

私の最も好きな曲のひとつで、満を持して昨年11月の定演で取り上げた。心をこめて指揮をしたが、その出来栄えは、演奏者のおかげもあり自分ではとても満足している。
この曲とのかかわりは、大学3年の春、県内の学生フェスティバルの合同曲として演奏したことを起点とする。
当時はセカンドを担当したが、一度や二度合奏しただけでは、どんな曲なのかさっぱりわからなかった。他のメンバーからも最初は不満らしき声が上がっていた。
しかし、練習が進み、他のパートの音が次第に聞こえてくるにつれ、この曲の持っている深さ、味わいに気がついてくる。
いつか、人生経験を積んだ後に、もう一度演奏してみたいとずっと願っていた。
指揮者のタクトのもと、全員で心を一つにして演奏するという醍醐味を存分に味あわせてくれる曲である。

さて、ボッタキアリ(1879~1944)は、プレクトラム音楽の華やかなりし時代のイタリアを代表する作曲家。マンドリン界の至宝「交響的前奏曲」や、「IL VOTE」、「彷徨える霊」など、多くの名曲を残している。
「夢の魅惑」は、彼が亡くなる3年前の作品で、戦時中の1941年にシエナで行われた作曲コンコルソで一位入賞した(この年の第二位は「英雄葬送曲」、第三位「夏の庭」)。 この曲の特徴は、イタリア風の甘い旋律に不協和音を取り入れ、減和音・増和音の多用、半音階の使用など近代的な転調を用いていることで、調性が失われていくことである。
極めて繊細で複雑な内容を持ち、また、情熱的で品格のある本曲は彼の代表作にふさわしい作品と言える。
冒頭、低音部によって提示されるシンプルなH-Gis-Eの主題が、徐々に高音部へ展開し、三連符をベースにした伴奏を縫って美しくも、せつない音の空間が造りだされ、主題が全貌を表した後は、波打つように、曲中に多くのクライマックスを築き上げていく。
そして悩み、苦しみ、つかの間の喜び等を味わいながら、「夢」は持続しつつ、途中で一つの到達点に至る。
ただ、一度は到達したその夢も、曲の終結部では未来を夢みつつはかなく、永遠の無の彼方に消えて全曲を閉じる。
本曲で描かれた「夢」は、人間の一生あるいは時代さえも反映した、例えようの無い、狂おしい焦燥感にも似た、こみ上げてくる熱い想いを感じさせてくれるのである。
今度は、老人になった頃にもう一度演奏したいと思っているが…

※2005.3月記。

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