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「瑞木の詩」私論

 

「瑞木の詩」の作曲者による曲目解説は、初演された京都教育大学のホームページに掲載されている。そこに記された作曲者のコメントを踏まえた上で、私なりにイマジネーションを膨らませてみたい。


この曲に何度も触れるうちに、生命力に満ちた一本の木がすくすくと成長していく様子がオーバーラップしてきた。
それはあたかも一人の若者が、夢に向かって様々な経験を積みながら、豊かに成長していく様子に思えてならない。
若さというのはすばらしい。
無限の可能性を秘めている。多くの人と会える。どんなことでもできる。どこへでも行ける。
だけど若い時には、そんなことには気づかない。
人生の半ばを過ぎてみて、過ぎ去った日々のことがとてもいとしく思えてくる。

第1楽章:翠雨

「水も滴るいい男」「春雨じゃ。濡れていこう」なんて言葉があるが、いつの世も瑞々しい感性を持つ人は魅力的である。
森の中で颯爽とデビューした若い芽は、翠雨というシャワーを存分に浴び、明日への夢と希望を持ちながら、いろいろな経験と知識という栄養をインプットすることにより、明日への活力を蓄えている。

第2楽章:森の住人たち

少しイメージは異なるが、私は「天空の城ラピュタ」のワンシーンを思い出す。
滅びてしまったラピュタ王国。しかし今でもその城を守り続けているロボットがいる。次第に森へと風化していく城の中で、およそ自然界とは程遠い存在であるロボットは、実は小さい動物と仲良く共生しているのである。技術の粋を駆使したロボットの肉体にはすでに植物が芽吹き、そのうちに樹木と化していくのだろう。
万物に対する自然の慈悲、大らかさを感じる。
すごく悲しくてやるせない、でもなぜか胸が熱くなるシーンである。
この楽章では小動物の戯れもさることながら、むしろ何も言わず彼らと仲良く共生している、懐の広い樹木のことを想う。

第3楽章:月影揺らす風

組曲の中でも、特にロマンティックな曲である。
今や青年になった一本の木。
いつも独りぼっちの彼だったが、月夜のある日、森をそよぐ風に静かな恋をした。
そしてその思いは次第に強くなる。
決して成就することのない、届かない恋のせつなさがあふれてくる。
でもこの大自然の中では、風と木はすばらしいパートナーであることには違いない。
今日も明日も、これからもずっと、ともに森の中で生きていけることに気づき、安堵する。

第4楽章:光陽(ひかり)の樹

太陽の光をしっかりと浴び、伸びやかに成長している一本の木。
明日への躍動感がみなぎってくる。
まわりでは、色んな人たちがおしゃべりし、にぎやかに騒ぎ、歌声が聞こえる。あいかわらずいろいろな小事件も起きるけど、涼しい顔で彼は切り抜けていく。
それらをすべて自分の糧にして、強い自らの意志で、さらに太陽に向かって伸びていく。

※第63回定期演奏会で本曲を取り上げるにあたって、2005年11月に執筆したものです。

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