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メイキング・オブ・「最後のダンス」

 

2011年11月20日に開催された第69回定期演奏会の第3ステージで、私の作曲した「最後のダンス」(副題は「アヴィニョンに眠る君へ」)が初演されました。

 

私はこれまで、マンドリン音楽普及のために数多くの楽曲を編曲しており、その編曲作品は170曲を超えました。これらの作品は、当楽団はもちろん、全国の楽団でも広く演奏していただいていますが、完全な私自身のオリジナル作品と呼べるものは手がけたことはありませんでした。

ただ、ここ数年、心の奥で時にはゆるやかに、時には激しく鳴っているフレーズがいくつも存在していました。次第に、自分の中に残る遠い記憶と結びついて大きく形作られてきたので、思い切って作曲を試みたわけです。

楽曲の調はa-moll、形式はA-B-C-A’-B’のシンプルな構成とし、テーマは、かつて日本を遠く離れたフランス・アヴィニョンの地で偶然出会い、夢を語り合った恋人との、過ぎ去りし「別離の日」の回想としました。そして、何十年も経過する間に、美しい横顔を持ったかつての恋人は志半ばにして、悲しくもフランスの地に永遠に眠っているという設定です。

題名で使っている「最後のダンス」は、いわゆる舞踏会での終曲(=last dance)ではなく、惹かれあっていても別れなければならなかった「大人の恋の終曲」と考えることにしました。したがって、本曲はチークダンスのような静かに踊るバラードではなく、情熱的な舞曲を基本とします。

曲の導入部(A)は、アヴィニョンの地での別れの日の語らいを表現しました。4分の4拍子のゆるやかなテンポでマンドセロからマンドラ、マンドリンへ主題が移るにつれて、次第に切ない想いが込み上げてきます。一転、8分の6拍子(B)の軽快な舞曲に乗って、思わず街角で踊る二人。ひとしきり踊った後、C-durに転調して、噴水の縁に腰掛け、楽しかった思い出の日々を回想(C)します。別れの時間が迫ってきました。再びa-mollの第一テーマ(A’)に戻って1stと2ndによる最後の語らい、次第に全パートが加入し、テンポアップされた8分の6拍子(B’)の舞曲で最後のダンスを踊った後に、フィナーレを迎えます。

実は、この曲の骨格は2年前に出来上がっており、試作品を部内演奏会の班演奏で取り上げた後、さらにブラッシュアップを行い、定期演奏会での初演に至ったわけです。当日の会場アンケートではよかった曲の第2位を獲得でき、正直言って驚きました。この結果は、自作曲を指揮できたという幸福感と、曲への想いを込めたオーバーアクションの指揮スタイルが功を奏したのかもしれませんが、何と言っても、演奏してくれた愛すべき団員のおかげであることは言うまでもありません。

指揮を終えた瞬間、満席のお客さんからの暖かい大きな拍手を受け、万感胸に迫るとともに、これまでマンドリン音楽を続けてきてよかったと心から思った次第です。

さて、数ヶ月にわたる練習進行中は、シャイな性格でもあり、この曲の背景を詳しくは語りませんでした。コンサート終了後、ロビーではお客様から、そして打上げの会場では団員たちから「この曲は実体験に基づいたものですか?」と聞かれました。実際、フランスには一人で2回ほど行っていますし、去る6月に仏検3級を取得するなどフランス語の勉強も続けています。

では、本当に大人の恋と別れをしたのかどうか。それはご想像にお任せします。

 

(日本マンドリン連盟九州支部会報 2011年12月10日記)

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